いつものようにさらりと視線を送ったザックは、その中に、ひときわ背の低い少女を見つけ、頭が真っ白になった。しかも、彼女のエスコート役はイートン伯爵だ。

「ロッ……」

ザックは息が止まった。本当に数秒は呼吸ができないくらいに驚いた。
デビュタントたちは、エスコートしてくれた同伴者と最初のダンスを踊る。ロザリーが小さい体ながらクルクルと踊るのを、ザックは息を詰めて見つめていた。

「うちの秘蔵っ子はどうだい」

いつの間にかケネスが隣に来ていて、にやにやと笑っている。

「お前……、よくもぬけぬけと」

「もともと、ルイス男爵には社交界デビューさせるとお約束していたからね。かわいいだろう? 小柄ながら運動神経は悪くない。化粧をするだけで印象はけた違いに変わる」

たしかに、そこにいたロザリーは相変わらずの小さい体だが、ちゃんと、本当に綺麗な女性なのだ。
ふわふわとしたかわいらしい雰囲気は残したまま、令嬢として不足のない所作をしっかり身に着けていた。ザックは今すぐにでもイートン伯爵からエスコート役を奪いたいくらいだった。

だが、自分が声をかけては目立つと口を真一文字に引き結んでいたが、踊りながら、ちらちらとロザリーがこちらを盗み見ている視線を感じる。
その顔にはとても心配していたのだと、書いてあった。
分かりやすく表情が豊かで、心根の優しいその少女は、やはりザックにとって癒しなのだ。ザックは戻ってからずっと抱え込んできた心の課題を、一瞬すっかり忘れてロザリーに見入っていた。