ザックは夜会の準備に追われていた。
あれから、ザックは内密に造幣局長サイラス・ウィストン伯爵について調べた。
かつて、ウィストン伯爵家は資産家として有名だったが、先代の浪費がたたって、サイラスが成人するころはかつかつの暮らしだったようだ。小太りの男で年は四十一歳。学術院時代の成績は中の下だ。
卒業からずっと造幣局でコツコツと働いていたが、今より十年ほど前から急に羽振りがよくなり、出世コースに乗りだした。局長に就任したのが五年前だ。

「為替レートが下がったのは彼が局長になってからなんだよな」

どうにもうさん臭さを感じて、ザックは報告書をみやる。
彼は派閥としては無党派層に属する。だが、多くの場合にアンスバッハ派の支持をしている。
この夜会で、アンスバッハ侯爵とサイラスのつながりに関して何か分かればとも思っていた。


そして、夜会当日がやってくる。
会場は城の大広間。すでに楽団は定位置につき、音楽を奏でている。定例の夜会ではあるが、貴族議員はおおむね参加していて、ザックのお目当てであるウィストン伯爵の姿もあった。調書によるとウィストン伯爵は妻を数年前に亡くしているらしく、ひとりでの出席しているようだ。

どう声をかけようかと考えあぐねているうちに、本日が社交界デビューだという令嬢たちが、国王への謁見を済ませて入ってくる。
皆一様に白いイブニングドレスに身を包み、同伴者である父親の手を取り、恥ずかしそうに微笑みを浮かべていた。