「まあ、そうかもね。でも警戒は強めておいた方がいいね。第一王妃は自身の子を盾にしてまでも君を殺そうとしていることはわかったわけだし」

「それと、ロザリーに手紙を出すのはしばらく止めようと思う」

ケネスの長いまつげがピクリと動く。

「なぜだい?」

「彼女に危険なことがあれば困る。しばらく連絡が取れなくなるという内容の手紙を書いたから、これを送ってくれないか」

封蝋が落とされた手紙を、ケネスは一瞥する。

「……俺は反対だな。むしろロザリー嬢を引き込むべきだ。うちで預かるよ。とっとと社交界デビューさせて、公式にお前と会う機会を作ったほうがいい」

「彼女になにかあったらどうする!」

執務机が強く叩かれ、羽ペンがインクツボの中で揺れた。
苦渋に満ちたザックの表情に、ケネスは唇をゆがませる。そこには、軽蔑に近い感情も入り混じっていた。

「俺は反対だね。守るために遠ざけるなんてナンセンスだよ」

「だが俺は王子だ。立場上ロザリーに引っ付いているわけにはいかないんだ。守り切れない!」

「君に守られるのを彼女が望んでるとは限らないだろう?」

「だが……!」

なおも言いつのろうとしたザックに、ケネスは呆れたため息を落とす。
ザックは怯んだように息を止めた。ふたりの間に、常にはない緊張が流れる。

「君はいつもそうだね。なぜ俺がアイビーヒルに逃げようと言ったのか、分かっていなんだろう。このままじゃせっかく取り戻したものがみんな駄目になる。……しばらく離れようか、ザック。今の君の側にいても、俺はなにも出来そうにない」

「……ケネス?」

「執務補佐は誰かを代わりに雇ってくれ。では失礼するよ」

「おい、ケネス!」

引き留める声も聴かず、ケネスは部屋を出て行った。ザックは信じられない気持ちで彼の消えた空間を見つめていた。