食事を終えてからケイティとの約束の時間になるまでの間に、ロザリーはレイモンドに会いに厨房へと向かった。
メイド長と執事には紹介されたが、使用人ひとりひとりに顔が知られているわけではない。使用人たちは、見たことのない令嬢に不思議な視線を向けながらも、立ち止まって彼女が通り過ぎるのを待っていた。
「あの、厨房はここでいいですか? レイモンドさんを呼んでほしいんですが」
ちょうどでできた白い調理服の男に声をかけると、驚いたように背筋を伸ばし、「な、なにかまずいことでもありましたか? こんなところまでお越しいただいて。失礼ですがどちらのご令嬢でしょう。料理人を部屋に向かわせます」と恐縮された。
伯爵家の客であるロザリーが、踏み込んではいけないエリアだったのだと今更のように思いながら、「いいえ。レイモンドは私と一緒に来た料理人なのです。こちらになじんでいるか様子をみたくて」と説明した。
これだとまるでロザリーがレイモンドを雇用しているようで申し訳ないが、今の立場上そう言わざるを得ない。
「はっ」
男はすぐさま厨房にもどり、すぐにレイモンドが出てきた。
レイモンドはすでになじんでいるようで、通りすがる料理人が「今度この料理を……」と声をかけてきた。レイモンドの背中に隠れて見えなかったロザリーに気づくと、はっとしたようにかしこまって去っていく。
ふたりは少し歩き、人けの少ない廊下でようやく腹を割って話すことができた。
「ああ、ロザリー。どうだった? 今日の料理は。素材もいいからうまかっただろう」
「もう……もうっ、最高でした。あの肉汁……! ザック様にも食べさせたかったで……」
無意識にザックの名前が出てきて、ロザリーはハッとする。レイモンドは、そんなロザリーを優しく見つめていた。
「……大丈夫だよ。ちゃんと社交界デビューもさせてもらえるんだろう? ケネス様がいれば、そのうちザック様にも会える。お前のことは心配ないって思っても大丈夫だろ?」
安心したように言われて、ロザリーは申し訳ない気持ちになる。
無理を言って連れてきてもらったのに、自分ばかりいい想いをしているようで申し訳なかった。



