呆気に取られているロザリーに苦笑を返すと、ケネスはロザリーを連れて応接室へと向かう。

「悪いね。クロエはどうもわがままで。俺もついつい甘やかしてしまったから」

「クロエさんはケネス様のことが大好きのようですけど」

「ああまあ……社交界デビューすれば他所の男に目が行くかと思ったけど、あんまり変わらないことにびっくりしているところだよ」

先ほど、ロザリーに向けた視線は敵意がむき出しだった。単純に兄を敬愛する妹の態度ではないだろう。
十七歳であれば社交界にも出ているはずだが、あの調子では結婚相手を探す気があるのかどうかも危うい。

「私の社交界デビューの話ですけど。……ひとつだけ聞いてもいいですか? 社交界デビューするのは金銭的にも負担がかかります。私、そこまで甘えてしまっていいんでしょうか」

父母が死んだ時点で、社交界デビューは諦めていた。男爵家にはタウンハウスはないし、老齢の祖父にそこまでの苦労もさせられない。なにせ、社交界デビューするには、それなりに費用がかかるのだ。白のドレスにティアラ、白の靴に白の手袋。最低限必要なものはそれくらいだが、通常はそれに加え、首元や耳元を彩る宝飾品も必要となる。
それらをイートン伯爵家にまかなってもらうというのは気が引ける。

「甘えてもらえると助かるね。君を支援するのは、俺にとって都合がいいからだ。俺はザックを弟のように思っているから、あいつが落ち着いてくれないと、心配で自分の家庭を持とうという気にもならないよ」