「……なぁんだ。田舎の男爵令嬢ですか」

態度の変化に鳥肌がたつ。さっきまでとても可愛らしかった令嬢が、急に冷めた目つきになり、ロザリーから引き離すようにケネスの腕にしがみついた。

「あ、あの」

「お兄様にはふさわしくありません! どうぞお帰りください」

どうやらケネスの恋人と間違えられたようだ。そのうえ、一目でふさわしくないと断じられ、ロザリーは少しばかりショックを受ける。

「こら、クロエ。俺とロザリー嬢はそういう関係ではないよ。彼女は、アイザックの大事な人で、俺にとっても大切な客人だ。お前とも仲良くなってほしいんだよ」

「アイザック様の?」

それこそ意外だ、とでも言うように、ロザリーの身なりをじろじろ見る。

「ふうん。でもでしたら、アイザック様が保護なさればよろしいのでは?」

「知ってるだろう、クロエ。アイザックにはその自由がない。だから俺が動くんだ」

「お兄様はいつもいつもアイザック様のことばかり。私のことなんてどうだっていいんですわね」

ぷうとふくれて見せる様子は可愛らしい。ケネスの前でだけ、クロエは少しわがままな可愛らしい女の子になる。

「そんなことあるはずないだろう。お前は俺のかわいい妹だよ。夫候補は見つかったかい?」

「まだです。お兄様より素敵な男性なんてなかなかいませんもの。お兄様が一緒に来て見定めてくださればいいわ。今度の夜会はぜひエスコートしてくださいませ!」

「ああそうだね。またあとでゆっくり話そう。それより母上は?」

「お母さまならお部屋にいますわ」

「応接室に来てくれ、と伝えてもらえるかな?」

やんわりとケネスが頼むと、クロエは少しばかりムッとした表情を見せる。

「お兄様が言うなら仕方ありませんわ。でも、私、使用人ではありませんのよ?」

「母上もお前の顔が見たいだろうと思ったんだよ、かわいいクロエ」

かわいいという言葉にすっかり気を良くしたのか、クロエは踵を返して二階へと上がっていった。