お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

そんな彼が唯一気を抜いた表情になるのが、ロザリーからの手紙が届いたときだ。
そして翌朝には必ずケネスに返事を出すよう頼みに来る。

ケネスはそれを、いい兆候だと思っていた。
変に真面目なところがあるザックは、ある意味でのめり込みやすい。権謀術数に長けた長老たちに真正面から向かっていってもろくなことが無いとケネスは思うのだが、割合直接的に物事を進めたがるのだ。
悪意にも真っ向から立ち向かっていく彼は、当然のごとく思い切り悪意を浴び、ひたすらに疲労していく。

だからこそ一年前、ケネスはここにいてはザックの精神が病んでしまうとアイビーヒルの連れ出したのだ。

しかし今回は、ロザリーと手紙でつながっている。癒しがある状態ならば、ザックも以前ほど追い詰められた状態にはなるまいと思えた。

だが、事態は思うように進まなかった。
ザックが頻繁に手紙を出していることに、アンスバッハ侯爵の腹心の部下である二ールベン子爵が気付いたのだ。

「これはこれはアイザック様。恋しいお方でもおられるのかな?」

「いや? 休職期間にお世話になったお礼を送っているだけです」

ザックはそう言ったが、できているようでできていないポーカーフェイスに、手紙を送る相手が特別な相手であることはたやすく想像がつく。

それで、ザックはロザリーに【しばらく連絡が取れなくなるが心配しないで】という内容の手紙を書いて、ケネスに託したのだ。