お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。



ケネスの話をまとめるとこうだ。

ザックとともに城に戻ったケネスは、第二王子執務補佐という形で、ザックの下につくこととなった。
一年以上、所在を明らかにしていなかったザックへの対応は、二通りに別れる。「お待ちしていました」と歓迎するものと、「今頃やって来てなんだ」という批判をするもの。
実際執務を放り投げていたのは事実なので、ザックもケネスも批判は甘んじて受け続けた。成果はこれから出すものであり、それを出すまで大きな口をたたく権利はないだろう、と。

特にひどいのがアンスバッハ侯爵――第一王妃の兄にあたる人物だ。
一応王子に対してだから言葉遣いこそちゃんとしているが、病床についている第一王子と事あるごとに比べ、嘆かわしいとため息をつく。

ケネスにしてみれば、第一王子こそ国のことは考えず、自らの病弱さだけを嘆くような自己中心的な男だと思うのだが、口に出せば不敬となるため、仕方なく口もとに緩やかな笑みを浮かべてやり過ごしていた。

ザックは、貴族議会に戻り、昨今の市場不安の原因を探るために動き始めていた。
自身の母親である第二王妃や、国王、第一王子への見舞いなどもこまめに行っている。
一年間の不在を取り戻すような精力的な活動に、ケネスは感心していたが、一方で彼にストレスが溜まっているのも見て取れた。