お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

レイモンドは顔をしかめていたが、背に腹は代えられないのか、「お願いします」と殊勝に頭を下げた。
すると嬉しそうに身を乗り出し、「代わりに、君には滞在中、うちの料理人として働いてほしいんだ。今いるシェフにレシピの提供もすること。いいかい?」とケネスが笑う。

「はあ。でも、ぽっと出の俺と一緒に仕事をするなんて、嫌らがれるんじゃないですか? 伯爵家の料理人だったら、ものすごい修行していたり家柄が良かったりするんでしょう?」

「それを黙らせるのは実力だよ。まずは一度料理を作って、みんなに食べてもらうんだ。なあに、俺の舌が認めた味だ。みんなも気に入るに決まっている」

「そんな無茶を……。でも正直、仕事があるのは助かります。ただで伯爵家に厄介になるなんて、とてもじゃないが心臓が持たないんで」

レイモンドとしては、オードリーに会うまでも長期戦になりそうな気配だったので、とりあえず仕事を見つけなければと思っていたところだ。この申し出は渡りに船といえる。

「そういうわけで、レイモンドにはしばらく住み込みでうちで働いてもらおうと思うんだ。ロザリー嬢もうちにおいで。元々、君を連れてくるつもりだったから準備はできてる」

「私を?」

「ああ。君をうちで預かって社交界デビューさせようと思って」

それは思いがけない申し出だった。一瞬頭が真っ白になったロザリーは、そのあと、馬車内に響き渡る声で「ええええええええぇー!」と叫んだのだった。