「まあ……そうだな。会えませんでした、で帰るわけにもいかないしな」

「オードリーさんの義理のご両親は子爵なんですよね。でしたらイートン伯爵のお力添えをいただくこともできるかもしれません」

図々しい願いなのは百も承知だがな、と付け加えて、レイモンドも頷いた。

食事を終えた後、ロザリーは宿の主人に頼んで、便箋と封筒を分けてもらった。
部屋に戻り、数少ない便箋を無駄遣いしないように、頭の中で何度も文章を考えてから書き出す。

【ケネス様。ザック様からの連絡が途絶えて心配しております。どうかお力をお貸しください。現在城下町のダンデライオンという宿にいます。
ロザリンド・ルイス】

たくさん文章を考えたはずなのに、書いてみればシンプルな内容になってしまった。
封蝋が無いので怪しまれるかもしれないと、封筒にしっかり名前を書く。

翌朝、手紙ができたことを伝えると、レイモンドがひょいと封筒を奪い取り、「届けに行く」と言った。

「え、でも」

「自分で手紙を届けに行く令嬢なんて聞いたことねぇよ。使いなら俺のほうが似合いだろう」

「それは……そうなんです?」

たしかに、この距離で郵便配達人を頼むのももったいない。ではお願いします、と頭を下げ、張り切って出ていくレイモンドを見送った。