せめてザックの安否だけでも、とロザリーは平民市場に行き、王家の噂話を仕入れることにした。
じき夕方という時間だから、市場は閑散としていた。
ちらちらとまだ開いている店を覗いてみたが、パプリカの表面に軽く皺が寄っていたり、キャベツの色がくすんでいたりと、鮮度はあまりよくなさそうだ。

(午後ってことを差し引いても、傷んでいるような……。街だからかなぁ。アイビーヒルは生産者も近くにいるから、なにを見ても新鮮だったけど)

「お嬢ちゃん、このトマトはうまいよ。王都一だ」

真っ赤なトマトを手に持った売り子がそう言うけれど、どう見ても熟れすぎている。
ロザリーは「そうですね」とあいまいに答えつつ、「最近、王家の方々の噂ってありませんか?」と聞いてみた。

「うわさって? さあなぁ。第一王子バイロン様はまだご病気がすぐれないままだし。月に一度のご拝謁のときも全然姿を見せないね」

「ご拝謁とは?」

「ここからも見えるだろ? 王城の一番上のバルコニー。あそこで月に一度、王家の皆様が国民に姿を見せるんだ。といっても平民街からじゃ顔の判別も出来ないくらい小さいけどな。最近は国王様と第一王妃様しか見ないな」

平民街からは王城は遠い建物だ。だけど、月に一度のその日までここにいれば、ザックの姿くらい見れるかもしれない。
ロザリーの胸に、希望のともし火がつく。

「そうそう、最近、アイザック様が姿を見せるようになったな」

「本当ですか?」

「ああ、黒髪だから目立つしね。間違いようがない。一年くらい姿を見せなかったから、ご病気かなって噂だったんだ。第一王子に続いてだろ? 王家は呪われているんじゃないかって言われてた。でも、元気になったようでよかったよ」

「そ、それっていつの話ですか?」

「前回のご拝謁のときだから、十日前かな」

であれば、とりあえずザックが病気だというわけではなさそうだ。
ホッとした半面、今度はザワリと胸騒ぎがする。
ならばどうして手紙が届かなくなったのだろう。