急に不穏な空気に包まれ、その場にいる皆が顔をこわばらせる。
やがて警備隊のひとりが前に出る。ザックは皆が飛び出さないよう手で下がっているように指示し、ひとり、前に出た。

「ずいぶん物々しいが何事だ?」

「アイザック王子殿下ですね。私は警備隊隊長を勤めております、アンガスと申します」

ザックは無言で頷いた。先日のウィストン伯爵の逮捕劇のときにも見たことのある男だ。
しかし、彼が続けた言葉に、ザックは平静を保っていられなくなった。

「あなたに、バイロン王子殺害の容疑がかかっています。速やかに王城にお戻りください」

「は? 兄上が死んだ?」

それは晴天の霹靂だった。
バイロンの体調はたしかに悪かったが、こんなに突然終わりを告げられるほどじゃない。
しかも容疑などと物騒な単語まで飛び交っている。

「ちょっと待て。兄上になにがあった。死因はいったい……」

「病死に見せかけた毒殺です。毒物も特定できています。……輝安鉱です」

「なっ……!」

警備隊のリーダーは、オードリーにも目を向ける。

「そちらの女性は、故オルコット教授の奥方ですね。あなたにも毒物採取の容疑がかけられています。ご同行願います」

「え?」

オードリーも寝耳に水だ。驚きすぎて身動きさえできないうちに、クリスから引きはがされ、憲兵に腕を押さえられる。

「ママ!」

「オードリーを離せ!」