追ってきたザックとロザリー、イートン伯爵家の面々は、言葉もなくそれを見つめる。やがて、家長であるイートン伯爵がやって来ると、使用人は道を開け、侯爵の一団と伯爵は、倒れたサイラスを間に挟んで向かい合うこととなった。

「これは……どういうことです? アンスバッハ侯爵」

アンスバッハ侯爵は血に濡れたサイラスを衛兵に抱え上げさせて、口端で笑った。

「造幣局での不正が発覚しました。彼には多くの容疑がかけられています。通貨偽造、禁止された鉱物の採取と密輸。それと、……アイザック王子、あなたの殺人未遂です」

アンスバッハ侯爵の指が、汗で肌を湿らせたザックを捕らえる。

「ご無事だったようでよかった」

心にもないことを笑顔で言ってのける侯爵に、ザックは言葉も出ない。

(……しっぽ切りか。侯爵はすべての罪をウィストン伯爵になすりつけるつもりなんだ)

「あなたは、記念硬貨の金属配合について、彼に意見していたそうですね。そして彼はそれに身に覚えがあった。バレる前にあなたを殺害しようとしたのでしょう。失礼ですが、夜会の食事、食器、すべてを調べさせていただきます。……ああ、ほら、王国警備隊もやってきました」

王国警備隊は王都の安全を守るための独立組織だ。
こうなれば、イートン伯爵がいくら屋敷の主人であっても、立ち入りにNOとは言えない。

「分かりました。夜会に出席した人々はお帰りいただいても?」

「いいえ。一通り話は聞かせてください。もしくは身元の確認を。まずは中にいれていただきましょうか」

楽しかった夜会は一気に騒然とし、聞き取りを終えた人間からぽつりぽつりと帰って行く。
その場は、警備隊の主導のもととはいえ、完全にアンスバッハ侯爵の独壇場だった。