『いい儲け先でもあるのか? 俺にも紹介してくれよ』

しかし、何度聞いてもジェイコブは答えなかった。

業を煮やしたサイラスは、ジェイコブの動向を探ることにした。
彼は、教授の許可を得ない採掘を行っているようだった。なのに、人足は非常に多い。
ジェイコブにこれだけの人を雇える金があるわけがない。
子爵家は裕福なのだが、オルコット子爵はジェイコブが学問にのめり込むのをあまりよく思っていないので、学費以外の支援を断っているからだ。

目当てのものは直ぐには見つからないらしくジェイコブは何度か採掘に向かっていた。
サイラスが後をつけたのは二回目までだったが、それ以降も彼は定期的に採掘に向かっているようだった。

それから一年ほどして、サイラスは思い立ってジェイコブが使っていた採掘場へと赴いた。
既に彼の目的は達せられたようで、そこは打ち捨てられたただの穴倉だった。
……が、ジェイコブとて鉱石学を学んではいる。ここにあった鉱物の残りを見て、彼が掘っていたものが何かを知った。

(……アンチモン硫化物)

輝安鉱という、銀と間違えやすいが硫化鉱物だ。金属光沢のある、剣状の美しい結晶が特徴的だ。アンチモンが人体には有害で、口にすると食中毒を引き起こし、最悪死にいたると言われている。
実際に銀と間違えられて食器装飾に使われて人が死んだ事件があるくらいだ。

こういった山中で見つかるときはすでに表面が酸化しているので、触った程度では何も起こらないが、爪で引っ掻けば欠けるくらいには柔らかいので、扱いには注意が必要だ。

(こんなものを、ジェイコブはなぜ?)