久しぶりにレイモンドの顔も見たかったが、今、厨房は戦場のようだと聞き、自重する。
顔なじみの給仕が、「ロザリンド様がいらしていることはレイモンドに伝えておきますよ」と言ってくれた。
この夜会には、バーナード侯爵をはじめとした貴族議員が夫婦で参加している。
王城で開かれるものとは違い、入り切る人数は五十人が限度だ。
その人数で収まるようにと、招待状は二十五通に厳選したと聞いている。
ロザリーはできる限り招待客の香りを記憶した。ロザリーがこの屋敷を出てから、新しい料理人は増えていないので、彼らのにおいはしっかり記憶できている。
やがて、入ってきた招待客に、ロザリーは顔を上げた。
先に入ってきた老夫婦は、オルコット夫妻。その後に続くのが、少し小太りな紳士と、派手さのない理知的な顔の女性、それと小さな子供だ。
(クリスさんとオードリーさん! ……そして、あの人はたしか……)
一緒にいた男性は、ロザリーも前に別の夜会で一度だけ見たことがある。
「ロザリー。あれがウィストン伯爵だよ。挨拶に行くから、香りをしっかり覚えてくれるかい?」
ケネスに耳打ちされ、ロザリーは小さく頷いた。
クリスは、大人ばかりの中に来たからか、いつもの元気さはなく、オードリーにしがみつくようにしてあたりを窺っていた。
先日のことがあるからか、もしくはオードリーが言い含めてきたからか分からないが、ロザリーを見つけても、一瞬口を開いたものの、そのまま目を伏せてうつむいてしまった。



