お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

バーナード侯爵の派閥に属する人間には、ザックを狙う利がない。だからその関係者はある程度省けるはずなのだ。

「料理も監修しているのはレイモンドだから、信用できる。ただ念のため、君にもいてほしいと思ってるんだ」

「はい?」

「仮にこの夜会でザックに手をかけようとするならば、調理済みのものにあとから手を加えることになるだろう。ここで君の鼻が生きてくる。食べ物から、料理人以外の香りがするときは特に要注意だ」

「毒見役の本領発揮ですね!」

ロザリーは意気込んで拳を握り締める。
ケネスは、少し離れた場所でカイラと話し込んでいるザックをちらりと見た後、片目をつぶって見せた。

「俺がこんなことを頼んだってことは、ザックには内緒だよ。君に危険が及びそうとなると、すごい勢いで怒るんだから」

「でも私、香りを嗅ぐだけですよ。本当に食べて毒見するわけじゃないんですから、危険なんてありませんが」

「それでも嫌みたいだよ」

くすくす笑いなら、腕を組んだケネスは、おもむろにロザリーの頬をツンとつついた。

「ところで、ロザリー嬢。君ちょっと元気ない気がするんだけど、気のせい?」

突然ケネスに全然別の話題を振られて、ロザリーは驚いた。いつも通りに、としていたつもりなのに。

「ど、どうしてですか?」

「いやだって。今日はなんか、あいつと距離をおいてないかい?」

ケネスが指を向けた方向には、ザックがいる。ふたりがやって来て挨拶を交わした後、自然にカイラとザック、ケネスとロザリーという組み合わせになっていた。