お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。



イートン伯爵邸にたぐいまれな才能を持つ料理人がいて、彼の料理を披露するために、イートン伯爵が夜会を開くという噂は、あっという間に広がった。
そこには第二王子アイザックも訪問するという噂がたち、適齢期の娘を持つ貴族たちは、にわかにイートン伯爵と交流をもち始めた。

イートン伯爵は厳選して招待状を送った。その中には、オルコット子爵とは別に、オードリー・オルコット個人へ送られたものもある。
先日の愚息の訪問の礼とともに、ぜひ小さなお嬢さんも一緒に、と招待したのだ。
通常、女性や子供がひとりで他家を訪問することはない。ぜひパートナーをお連れくださいと書き添えてもある。

「これで、ウィストン伯爵が呼び出せると思うんだ」

ひと通りの内容をケネスから聞かされ、ロザリーはぽかんと口を開けた。

「どうしてですか?」

「オードリーは頭のいい女性だよ。こちらがわざわざそう書いている以上、意図は察してくれるだろう」

「なるほど。でもウィストン伯爵がザック様を狙うとは限りませんよね。アンスバッハ侯爵との繋がりもはっきりしていないんでしょう?」

「そうだね。だが、毒は明確に彼の手元にある。第二王子を狙うにも絶好の好機だ。ここで毒物事件が起これば、彼とアンスバッハ侯爵の関係を洗い出すことができるだろう。造幣局へ取り調べも入れるようになるし、ひいては金貨偽造の件でも立件できるだろう」

「なるほど。むしろ事件を起こしてくれた方が、すべての解明に繋がってくるということですね」

「そう。警戒すべきはウィストン伯爵だけなのだから、こちらも楽だろう」