お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

マデリンは扇で口元を押さえたまま、その一団を見つめていた。
卑しい身分の伯爵邸の料理人がもてはやされ、第二王子にお近づきになるのが目的なのか、それとも単に噂の料理人の食事が食べたいだけなのか、ここぞとばかりにイートン伯爵の周りに貴族が群がっている。

「田舎育ちの料理人の腕前なんてたかが知れてますわよ、ねぇ、マデリン様?」

「ええ。そうね」

負け惜しみのように兄嫁が言う。マデリンも同じ気持ちだ。
兄の政敵である彼らの派閥が盛り上がるのはおもしろくない。
どう考えてもイートン伯爵はアイザック第二王子を今後の旗頭として行くつもりなのだろう。

(いっそ、その夜会で問題でも起きればいいんだわ。そうすれば、イートン伯爵の名もがた落ちよ)

思いついて、それが存外いい案だと気づく。

王宮よりも、伯爵邸の方が警備は緩い。そこでアイザック王子になにかあれば、イートン伯爵、ひいては彼の属するバーナード侯爵の派閥は痛手を受けるに違いない。

あとは、イートン伯爵の夜会に呼ばれる人間の中に、自分の手駒になってくれる人物を見つけることだ。

「まあ、マデリン様、どうなさったの?」

「え?」

「とても楽しそうな顔」

兄嫁にそう言われ、マデリンはすっと扇を広げ口もとを隠す。

「いえ。ちょっと楽しいことを思いついただけなの」

バイロンがだめなら、コンラッド。そのために邪魔なアイザックを始末する方法が。