そう言って、そそくさと部屋を出ていく。
改めてふたりきりとなり、空いた間が逆に恥ずかしさを連れてきた。

「あの、ザック様?」

「今の俺は、君に正式な誓いが立てられない。だから何か預けたいと思ったんだ。……必ずここへ戻ってくると証明できるものを」

そう言うと、ザックは常にやるようにロザリーを自分の右腕に乗せて持ち上げた。
どう考えても大人が子供にやる仕草なのだが、ザックはこうしてロザリーと目線を合わせることを気に入っている。
彼女が自分の腕を安心して体を預けてくれることも。

「待っててくれ、ロザリー」

「は、はい?」

何をですか? と聞いちゃいけない感じの甘ったるい空気に、ロザリーはドギマギしている。
そのまま、ザックが開いたほうの手を伸ばし、彼女の耳裏を触る。

「く、くすぐったいです。ザック様」

彼に寄りかかるように肩に乗せ、くすぐってくる指から逃げるように動くと、逆に彼に顔を近づけてしまうことになった。

「ザ……」

微笑んだままのザックが近づいてくる。
たじろいだロザリーはそのまま動きを止め、彼の動きをそのまま受け入れた。
唇を塞ぐ、温かい彼のそれ。何度されても慣れないけれど、何度でもこのドキドキが味わえるのならば、それはそれでいいような気もする。

「ロザ……」

小さく甘い唇をもう一度味わいたいというザックの願いは、再び遠慮なく開く扉の音で遮られた。

「五分経ったわよ。アイザック」

「……母上」

さすが元使用人。時間も正確である。
ザックは渋々彼女を腕からおろし、照れくさそうに頭を掻く。

「まあ、今日はゆっくり休むといい。色々落ち着いたらまた夕食を頂きに来るよ。母上も、それまでロザリーをよろしくお願いいたします」

「ええ。いつでもおいでなさいな。待っているから」

そのまま、ザックは部屋を出ていく。カイラがからかう様子を隠さないまま、ロザリーを見つめた。

「真っ赤よ、ロザリーさん」

「あ、……は、す、すみませんー!」

「あらやだ。何を謝っているのかしら。あなたたちが仲が良いのは私にとっては嬉しいことよ」

なんか最近元気になってきたよねぇと思いつつ、ロザリーはいつまでも口をパクパクさせていた。