お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


「女が仕事をして、いいことなど何もありませんわ。生意気になるばかりで」

子爵夫人がそこまで言ったとき、「やめて」とクリスが大声を出した。

「ママのこと悪く言わないで!」

「これ、クリス。はしたない。黙りなさい」

「いや! ママはすごいのに。何でも知ってるのに。何にも知らないおばあ様の方がどうして偉そうなの?」

「クリス! やめなさい。……子供が失礼しましたわ。ところで、ロザリンド様はどうしてここに」

「あ、……すみません、小用をするのに迷ってしまって」

「あら、そうでしたのね。使用人に案内させますわ」

夫人がポケットから取り出したベルを鳴らすと、どこからともなくメイドが現れる。

「こちらのお嬢さんをお手洗いにご案内して」

「はい。こちらでございます」

「さあ、行くわよクリス。お前は誰に似たのか口が過ぎます。あっちでじっくりお説教よ」

「ヤダっ」

いやいやと首を振るが、クリスは半ば無理やり連れていかれる。
止めて、守ってあげたい。
だけど、今、クリスとロザリーのつながりがバレたら、オードリーを救い出す計画にも破綻が生じてくる。

ロザリーは迷って……結局声をかけるのを辞めた。
鉛でも飲み込んだかのようにお腹が重い。

「こちらですよ」

侍女に言われ、顔をあげたものの後ろ髪を引かれる思いは消えない。
小用を終え、応接室に向かってからも、歓談するザックと子爵の話は全然頭に入ってこなかった。