お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。



さて、いよいよオルコット邸に潜入する日である。
今日のロザリーはディラン先生の助手という名目なので、貴族らしさを排除したシンプルなワンピース――つまり、最初から自分が持っていたワンピースで臨むことにした。

「カイラ様、これでおかしくないですかぁっ」

「今日はあまり目立たない方がいいんでしょう? 十分よ」

みつあみに結った髪に、カイラがリボンを巻いてくれる。真っ白のシンプルなリボンだ。

「いい? ロザリーさん。下働きというのは意外と情報通なの。主人に忠実であれば口は堅く、そうでなければ口が緩くなるものよ。知りたいことの糸口はそこから得るといいわ」

「カイラ様」

「元下働きからの忠告よ」

カイラはあの日以来、以前より吹っ切れた言動をするようになった。無理に王妃らしい態度をしなくなったせいか、平民らしさがむしろ際立ってはいるが、前よりも元気そうに思える。

窓を開け、冷たい空気を一度部屋に送り込む。
冷えるけれどもすべてが浄化されるような感覚が好きだ。

(……あれ?)

昨日までと少し内庭が違う。
大きく違うわけではないけれど、全体的に整えられたような……。

(庭師さんでも入れたのかな。でもいつ?)

「ほら、ロザリーさん。そろそろアイザックが迎えに来るわ」

「あ、はい!」

カイラに追い立てられて、ロザリーは支度を整える。
それからすぐにディラン先生を連れたザックとケネスがやって来て、一行はオルコット邸に向かった。