「だから、身分の高い方は少し苦手なのよ。イートン伯爵がお優しいのはわかっているんだけど。……あ、あなたも男爵令嬢なのよね。ごめんなさい。でもなんだかあなたが相手だと安心しちゃって」

「私は田舎育ちですから。最近まで平民のふりをして下働きもしてましたし」

「まあ、ふふ。私たち仲良くやれそうね」

「だと嬉しいです」

カイラと打ち解けることが出来て嬉しいロザリーは、安心してゆったりと眠りにつく。
しかし、物音がしてふいに目を開けた。
辺りは暗い。まだ真夜中だ。

「……なんでしょう、この音」

ドン、ドンと扉をたたくような音がする。
不思議に思ったロザリーはそろそろと部屋の外に出た。……と、廊下には最初に案内してくれた年配の侍女が、厳しい顔をして音のする扉をじっと見つめていた。
彼女はロザリーに気づくと、ふっと顔を緩めた。

「ああ、……申し訳ありません。最初にお伝えしておくのを忘れていました。カイラ様には夢遊病の症状があるんです。そのため、夜間は外から鍵をかけているのです」

「カイラ様……なんですか? 中で扉を叩いているの」

「ええ。でも起きたときに尋ねれば記憶にないとおっしゃいます。鍵をかける前は、庭に出てしまって足を怪我されたりいろいろトラブルもあったもので、今は施錠しています。ですが、中で何かあっても困りますので、こうして外で様子を窺っているのです」