「念のため資料も確認させてください」

工場から離れ、事務室に戻った三人は、ずらりと並べられた書類棚を、ラベルを元に確認していく。
そこに、銀色の鉱物が数種類置かれているのを見つけた。

「……これは?」

「査定目的で持ち込まれる鉱石です。金や銀であればそのまま買取することもありますね。宝石になるものであれば、証明書を出し、加工ができる技術者を紹介します」

「なるほど。であれば、ウィストン伯爵は石に詳しいのですね?」

ザックも、ポルテスト学術院の学生だった頃、専門ではないが鉱物学を学んだことがある。その時の教授は、もう亡くなったと風の噂で聞いたが……。

「……あ」

突然、ザックが間の抜けた声を出したので、イートン伯爵もウィストン伯爵も、思わず別人の声かとあたりをきょろきょろした。

「アイザック殿。どうなされたので?」

「い、いや、……すまない。学生のときの鉱物学の教授を思い出して。ウィストン伯爵はご存知でしょうか。オルコット博士という名だったのですが」

オードリーの名字と同じだ。
ザックはアイビーヒルで彼女に会ったときから、どこかで聞いた名前だと思っていたのだ。

「ああ。彼は私の友人だったのですよ。学生時代の同期でしてね。彼は鉱物の専門家となり、私は金属の専門家としてしのぎを削りました。残念ながら四年前事故で亡くなりましてね……」