「通常の金貨と同様ですよ。金が九十パーセント、銀が十パーセントですね。銀の算出が少ない年には、銅が混ぜられることもあります」

「金がそこまであれば、かなり安定しているはずですよね。……これを見てください」

ザックが取り出したのは、アイビーヒルの温泉宿で錆びてしまった記念硬貨だ。

「こ……これは?」

「記念硬貨です。間違いなく今年発行されたのに、もうこんなに黒ずんで錆びてしまっている。環境が悪かったにせよ、この劣化の速さは異常です。俺は金属比率に問題があるのではないかと思ったのですが」

「そうですな。……これは、……私の方でも調べてみます」

ウィストン伯爵はしどろもどろだ……が、これだけで彼を追求できるわけではない。
彼の部下が勝手にやったという可能性もある。
鋳造するはずの金を盗み、安値の銅や銀の比率を上げることは、工場で働くものならば、誰でも可能ではある。

「よろしくお願いいたします。父上の在位を記念する硬貨が不正硬貨であれば、発行元のあなた方にどんな罰がくだるかわかりませんからね」

軽く脅しも与えておく。
後ろでイートン伯爵が小さく笑っているのが聞こえた。全く困った狸おやじだ。