いやいやいや、だから、もちょっと離れてくださいっ。

 まだ慣れてなくて、ドキドキするんでっと慌てたとき、後ろで、ケッと声がした。

 いつの間にか、書類を手にした杵崎が立っていた。

「お前、今、ケッて言ったろっ」

「言ってません」
と陽太に杵崎が言い返したとき、深月のスマホが鳴った。

「あ、鈴ちゃんですよ。

 ぽすの写真つきだっ。

 鈴ちゃん、銀行で両替してくださいって言ったつもりが、替え玉してくださいって言っ――」

「仕事しろっ」

 言い終わらないうちに、二人に言われる。

 ぽかぽかの陽気で温まってきたパンのいい匂いを嗅ぎながら、深月は苦笑いして、慌ててスマホをポケットにしまった。




                            完