好きになるには理由があります

「いや、何処よ?」
と由紀たちが覗き込んだとき、

「最悪だったのは、私よっ」
とまだ髪の濡れている女がやってきて、怒鳴り出した。

 話を聞いていたようだ。

「あんたが派手に水たまりにモップ突っ込んだせいで、水は浴びるわ、顔にモップを叩きつけられるわ」

「いや、ふっ飛んでったんですよ……」

 不幸な事故です、と深月は言った。

「あそこまでやるつもりはなかったんですが……」

 いやいやいやっ、と女は叫ぶ。

「これじゃ、どっちが嫌がらせしてんのかわかんないじゃないのよっ」
と怒鳴られ、

「水たまりの掃除、手伝ってあげたじゃないですか」
と深月は言った。

 だが、女はまだ怒りがおさまらないようで、更に文句をつけてくる。

「だいたい、なによっ。
 あんたまだ、たいして仕事もできない新入りでしょっ?

 なのに、支社長秘書とかどういうことっ?」

 でも、たぶん、支社長がジイさんだったら、こんなにお怒りはないですよね……と思う深月に彼女は言った。