「ねぇ、伊藤さん、敬太と別れたって本当?」

「え…?」

「困るのよねぇ。ちゃんと首輪付けといてくれないと…あれじゃこっちが怪我しちゃう」

「あの…?」

「荒れ狂ってるわよー?敬太。伊藤さんの名前でも出そうものなら、殴られそうな勢い」


ある日、敬太の取り巻きの一人に声を掛けられて、私は驚いた。
本来ならば、何か文句を言われるのかとおもったのに…。


「伊藤さんが思ってるほど、敬太は馬鹿じゃないってこと。ね?よそ見してると…噛みつかれちゃうかもよ?」


綺麗に整えられた爪が、色素の薄い長い髪へと絡む。
その人は、にっこりと微笑んで、ね?と年を押してきた。


…訳が分からない。
なんで、そうなるのか。
だって、私はしっかりと意思表示をした。
別れると。
もう、彼女はやめると。


それなのに、どうして敬太はそんな風に荒れてしまうのか…。


何か、二人の中であの日から、まるで時が止まっているような気がする。