「じゃあ、白坂。こっちに来て」


背中を軽く押された私は、柱の陰に引き込まれた。


「どの記憶にする? さすがに中学のときのは、やめておくか」


中学のときの、って。

選べるほど、そんなにたくさんの記憶を消されているの?

彼の話が本当なのだとしたら、過去の私は一体、何を忘れたかったのか……。


真鳥が再び、私の額に手を伸ばす。


「……結衣?」


そのとき。背後から声がかかり、ビクリと肩を震わせた。

蓮先輩の、声……。



今にも私の額に触れそうになっていた手を、真鳥はさっと下ろす。


「白坂、具合が悪そうだったので。熱があるか確かめようとしただけですよ」


全く動揺せずに、うっすらと笑っている。


「柏木先輩は、白坂の過去を知っていますか?」


問われた蓮先輩は怪訝そうに眉をひそめた。


「過去……?」


私へ視線を移してきたので、ついそらしてしまう。

蓮先輩にすべてを知られて、嫌われるのが怖い……。


「過去に何があったのか知らないけど、僕は特に気にしないよ」


きっぱりと蓮先輩は答えた。

私の過去を気にしないと言ってくれたのが嬉しくて、肩の力が抜けた。