ひとりきりの部屋の中で、セシリアは真面目に考えている。

火の入っていない暖炉の前に置かれているのは、女性らしい繊細なデザインのテーブルセット。

そこまで移動して長椅子に腰を下ろした彼女は、カツラ以外に何か意地悪ができないかと、真剣に頭を悩ませていた。


その時、ドアがノックされ、侍女のカメリーが入ってきた。

落ち着いた緑色のワンピース姿の彼女は、ドア口で律儀に一礼してからセシリアの側に歩み寄り、淡々と話し出す。


「お茶の時間まで、あと三十分となりました。本日のティーフーズは、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ。それと、焼き菓子です。焼き菓子はチェリータルトとアプリコットパイの二種類をご用意しておりますが、どちらになさいますか?」


毎日のお茶の準備をするのも、侍女の大事な仕事であり、カメリーは焼き菓子の選択を求めていた。

それなのにセシリアは、半分上の空で家庭教師の顔を思い浮かべていたため、つい、「カツラのパイを……」とおかしな返事をしてしまう。

「は?」と眉を寄せたカメリーが、「なにを仰っておいでですか」と真顔で指摘する。


「タルトもパイも、カツラを被っておりません」