雪は降らないのにただただ寒い。
北風が強いこの街で、たたずむ人はみな、首をすくめて身震いをする。

歩行者天国のアーケード街では、多く人が行きかう。特にここは、横断歩道がある大通りを挟んだ歩行者天国の入り口であるため、信号待ちをしていた人が一気にこちらに向かってやって来て一気に混み合うのだ。

その中でもひときわ背が高く、目立つのが、通りの中央に立つ水時計。
わかりやすいから、ここは、待ち合わせスポットとして有名だ。

既に設置から十年以上経過している水時計は、かわいいんだかかわいくないんだか分からないような、微妙な顔をした天使が五体、等間隔で配置されている。一番上の天使のバケツから、すぐ下にいる天使のバケツに水が落とされ、いっぱいになったらまた下の天使に……という感じで流れ、最終的に下に落ちる。
おそらく落ちた水がまた上まで汲みあがる仕組みがあり、それが動力となって時計を動かしてもいるのだろうが、俺にはよくわからない。

実際、ここで待ち合わせしている人間の多くは、これの仕組みになんて興味はない。
ただ分かりやすい目印として、存在してくれればいいだけなのだ。

「待った?」

その声に、水時計の周りにいたひとりの男が、顔をあげる。
寒さで頬を染め、息を切らしてやって来る彼女に、「いや、全然」なんて強がりを言って、歩き出した。
俺は知っている。あの男は三十分も前からここにいた。