「まあ、ではその魔法使いが乗り移っているの?」

あの魔法が発動したときに宝石から聞こえた声を、ベリルは思い出した。低い、男の声だった。

「わからない。だが、その魔石を得た始祖は、数々の成功を収めたそうだ。そして最終的に、クルセイド王朝の始祖となった。そのころまでは、幸運をもたらす宝玉として扱われていたはずなんだ」


「文献には……」

「残っているが詳しくは書かれていない。ただ、記述から読み取れる感じでは、複数ではなくひとつなのだと思う。始祖はこの宝玉を国の宝として宝物庫に収めた。しかし、一度盗まれ、その時になにか大きな災いがあったらしい。それ以降、手にしたものはやがて心を失い、自ら滅びに向かう魔石とされている。そんな危険な宝玉を国の宝をするのもおかしいが、野放しにしていても危険だということで、地下にある宝物庫に収められていたのだ」

「……そうなんですね」

「地下の宝物庫は、そもそも人には知られていませんし、鍵はついていましたが警備はほとんどない状態でした。賊がどうやってそのことを知ったのかはわかりませんが、狙いとしては悪くないでしょうね。いわくつきとはいえ、盗んだものをすべて合わせれば、そこそこの値が付くはずですし」