「そういうことになりますね。あの宝玉は、いわくつきのものを収めている地下の宝物庫にしまわれていました。記録ではひとつとあったはずですが、実物を確認している人間はあまりいなかったと思われます。賊がどれだけ盗んだのかも麻袋に入っていたので確認はできませんでした。ちなみに、あなたのお姉さま……シンディ様はそのネックレスをどこで?」

「それは……」

ベリルは言いよどんだ。
ヒューゴが持っていたことを教えてしまえば、彼に悪い影響を及ぼさないだろうか。
彼本人が賭けカードをしていたことも、内輪のこととはいえ褒められた話ではないし、盗まれた宝玉を景品にしていたことは何かしらの追及を受けるだろう。

「……ごめんなさい。経緯についてはちょっと」

ベリルはとっさにヒューゴをかばってしまった。
後味の悪さは残ったが、彼らが素直にベリルの言い分を信じ、そこに関して追及されることはなかった。

「……あのエメラルドの宝玉については、古い言い伝えがあるんだ」

ローガンが顎に手をあて、脳内にある本のページをめくるようにゆっくりと話し始めた。

「クルセイド王朝になる前の話だ。魔法を使う男がいたそうだよ。彼は、始祖が持っていたエメラルドの原石をくれと言ってきたそうだ。始祖はこれを元手に商売をするつもりだったから、迷っていたそうだよ。しかし、男が何事か口にすると、突如、エメラルドの原石が光り、その光を浴びて彼の体は灰となって崩れ落ちたそうだ。光が収まったとき、原石は形を変え、きちんと加工された美しい宝玉になっていたのだそうだ」