「では少しお話しませんか。ローガン様のことを教えてくださいませ」

「俺のことなど分かっているだろう? この国の王太子だ」

ずい、と顔を近づけてくるローガンに、ベリルの腰は引けている。両手を前にかざして、彼をけん制した。

「そういうわかりきった事実ではなく、あなたの内面を教えてほしいのです。何が好きなのかとか、信頼なさっている方はどなただとか」

「ああ、そういうことか。好きなのは君だな。なんといっても美しい。先日の夜会でも君は光り輝く宝石のようだった。ひとり別格だったといえよう」

いら立ちが沸き上がる。ローガンが褒めるのは見た目のことばかりだ。そういった価値観の持ち主だとしたら、到底ベリルには尊敬などできない。

うつむいてイライラをこらえようとしていたベリルは、頭の上から影がかかったのに気づいて顔を上げる。
するとすぐ近くに、端正なローガンの顔があった。

「やっ」

「いい加減にキスくらいさせろ。せっかく婚約者とまでなったというのに、出し惜しみされるのはつまらん」

首の後ろを掴まれ、強引に唇を奪われた。そのまま手が胸元に伸びてくる。わしづかみにされて、ベリルの頭は真っ白になった。ふさがれた唇が不快で、相手が王太子であることも忘れて、渾身の力で突き飛ばした。