「シンディ様?」
思考にふけっていて、しばらくぼうっとしていたらしい。
気が付けば何度も教師に名前を呼ばれていて、ベリルは慌てて顔を上げる。
「すみません、先生。ぼうっとしてしまいましたわ」
「少し根を詰めすぎましたかね。休憩にしましょうか」
「ありがとうございます」
シンディは伸びをし、侍女が持ってきてくれた紅茶のカップを傾ける。
と、そのとき、突然騒がしい音が聞こえてきたかと思ったら、ローガン王子が入ってきたのだ。
「ローガン王子!」
「ちょっと時間が取れてな。休憩中か? 先生、ちょっとシンディを借りるぞ」
「え? あの」
「いいから、来い」
否応なく腕を掴まれ、ベリルは驚くが、彼は力を緩めることもなく歩いていく。
既に彼女がローガン王子の婚約者であることは知られているので誰もふたりの行動を止めようというものはいなかった。
「ローガン様、あの、痛いです」
「ああ、すまない」
「急にどうなさったんですか?」
連れてこられたのは城の外だ。美しい庭園をゆっくり眺めることもせず、東屋まで連れてこられた。
「たまにはふたりきりになりたかったんだ」
「ふたり……そういえば、コネリー様は? いつも一緒ですのに」
「まいてきた。あいつはうるさすぎる」
「まあ……」
ベリルの額に嫌な汗が沸き上がる。
でも苦手意識はいつか捨てなければならない。この人と結婚するのだから。
ベリルはそう考えなおし、歩み寄るための第一歩として会話を楽しむことにした。



