感情そのままに姉が飛びついてきて、よろけたベリルは、通りすがりの男性にぶつかった。
彼は走っていたところだったようで、ベリルは勢いよく跳ね返される。
ぐらりと体が傾げ、気づいた従僕が駆け出してくる姿も見えたが遅かった。
痛みを覚悟して目を固くつぶったが、彼女が地面に投げ出されることはなかった。

「大丈夫か?」

体が斜めの状態のまま目を開けると、男性の姿が見えた。薄汚れたコートに、つぎのあるハンチング帽をかぶっていて、黒に似た深い緑色の髪が隙間から見える。肌の色は黒っぽく、目つきが鋭い。口もとにホクロがあるのが特徴的だ。服装から見て、浮浪者かならず者かと思われる。

ベリルも彼の顔を見て一瞬悲鳴をあげそうになったが、彼の腕が自分を支えてくれているのに気づいて考え直す。
腕を借り、体勢を立て直して頭を下げる。

「ぶつかってすみません。そのうえ、助けてくれてありがとうございました」

「いや……」

言葉数も少なく、男性が立ち去ろうとすると、それを見ていたシンディがキャーと悲鳴をあげる。

「ベリル、腕にすごい汚れ!」

「え?」

どうやら男は手が汚れていたようだ。彼の手の形そのままに、袖に泥のような色がついてしまっている。
男はそれを聞いて直ぐに戻ってくると、ベリルのコートを確認する。