シンディが自分の言うことを聞くような娘なら、これほど人目を惹きつけ、称賛されるような娘にはならないだろう。そして、自分の意思を曲げれない性格は、民のために生きなければならない王妃には、不向きだ。
自分のためだけに生きる王妃となれば、やがてあしざまに言われることも出てくるだろう。
ブラッドリー侯爵はゆっくりと椅子に腰かけた。
そして、ぼんやりと、優雅に踊るふたりの姿を眺めた。
「……認めるしかないのか」
侯爵はがっくりと肩を落とし、幸せそうに微笑む娘を目で追い続けた。
一方、コネリーのリードに従って踊るシンディは、久しぶりに清々しい気分になっていた。
「ご機嫌ですね」
「言いたいことは言ったもの。それに、貴方はダンスが上手ね。踊りやすい」
「それは光栄です。練習した甲斐がありました」
「練習したの?」
「ええ。あいにく普段は男ばかりに囲まれてますので、バートを相手に頑張りました」
バートとはコネリーよりも体つきのがっちりとしたローガンのもうひとりの側近だ。
ごつい男同士が踊る姿を想像して、シンディは思わず吹き出す。
「いやだ。見たかったわ」
「見せませんよ。あなたがいるなら、私のダンスの相手はあなただ。そうでしょう?」
重ねている右手に力を込められて、シンディは無意識に顔をほころばせた。
それは、別の女性と踊っている男性の目までも釘付けにするほど麗しくやわらかな笑顔だ。
「そうね!」
「……この私の理性を持っていきそうになる人には初めて出会いました」
そう言うと、コネリーは踊りながら器用に体を屈め、シンディの耳をぺろりと舐めた。
「きゃっ」
「早く話を進めましょうね。あまり時間をかけると、紳士としてはあるまじき行動に出てしまいそうな自分がいます」
「え?」
「思い当たらないとは、案外シンディ殿は純情ですね」
にやりと笑われて、ようやく紳士としてあるまじき行動の中身に気づいたシンディは、顔を赤くさせたのだ。
【Fin.】



