エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

シンディの腰を支えるように手を添え、右手を柔らかく重ねる。

「ブラッドリー侯爵、お嬢さんをお借りします。後ほど正式な求婚の申し込みも致します。もし許していただけないなら……」

「その時は私がいなくなるだけよ」

続けて言ったシンディから本気を感じ取り、ブラッドリー侯爵はうなだれた。

「あなたの育てた娘さんは、どちらも素晴らしいですね、ブラッドリー侯爵」

コネリーはそんな宣言を残して、広間の中央へシンディと向かっていった。

その場にいるだけで、人の目を集め、華やかな笑みを振りまく侯爵自慢の娘は、今、ひとりの男にかつてヒューゴに向けていたような甘いまなざしを向けている。
だが、それを受け止める男の表情はヒューゴとは違った。ヒューゴはシンディにのぼせていたのが目に見えるほどだったし、余裕もなかった。
だがコネリーにはどこか余裕がある。愛おしむようなまなざしではあるが、周りに目が行き届いていて、シンディが踊りながら人とぶつかることがないようしっかり誘導しているし、先ほどブラッドリー侯爵にかけた言葉だって、余裕の表れだ。
爵位の有無さえ考えなければ、シンディを御すことができる珍しい人材だと言える。

「ベリルが王太子妃なのに、シンディがただの伯爵子息の妻になるのか……?」

侯爵はそれが納得いかなかった。ベリルよりもシンディのほうがずっと華やかで機転も利く。彼女が王太子妃になるのを夢見ていた。
だけどシンディの言ったとおりなのだ。