青い魔法使いが、にっこりとほほ笑んだ。すると幻影の人魚たちの中から、エメラルドの尾をもつ人魚が下りてくる。
そしてクルクルと渦を巻くように彼の周りを泳ぎ、幸せそうに微笑んだ。
「アッシュ」
もしかしたら、声には出てないのかもしれない。
だが、その声は水面を揺らし、優しい声音で伝わってきた。
「エレナ」
嬉しそうにそう答えた青い魔法使いは、幻影の彼女を抱きしめた。
彼女は彼の腕を引っ張る。一緒に泳ごうとでも言うように。
戸惑っていた彼は、ベリルをちらりとみて、はにかんだように微笑んだ。
「これでさよならみたいだ。宝石を元に戻してくれてありがとう」
ベリルが返事をする前に、彼は、彼女に引っ張られて、海の幻影の中に溶け込んでいった。
その瞬間、まるで引き戻されるように一気に世界が暗転した。
もうこの夢の世界に来ることはないのだろう、とベリルは思った。



