エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~



ローガンの指示で、ふたりはその日、城に泊まることとなった。
仕事で城に詰めていた父は、ふたりに会いに来て無事を喜んでいた。そのまま、ローガンとコネリーとブラッドリー侯爵は応接室にこもりきりとなる。

ベリルとシンディは隣合わせの部屋を与えられ、それぞれゆっくり眠りについた。

その夜、ベリルは夢を見た。
以前のように海の中だ。青い髪の魔法使いもいる。彼はうっとりと上を見上げていた。

「あなた……」

「やあ、君か。すごいね。まだ僕の中に入ってこれるんだね」

ベリルは空気の粒をまといながら彼に近づく。ふと彼の視線をたどると、そこに魚と人間が交じり合って泳ぐ群れがあった。
いや、よく見れば、交じり合っているわけではない。たしかに人間の半身を持つ彼らの足に当たる部分には魚の尾があったのだ。

「人魚?」

「そうだよ。ひときわ綺麗なエメラルドの尾があるだろう」

「ええ」

「それが僕の愛する人」

え、と思い見上げる。美しいエメラルドの尾はきらめきながらスイスイと水面を泳いでいる。

「本物じゃないよ。彼女は死んでしまったから。俺はそれが悲しくて、生きているのが嫌になって、この宝石の中に閉じこもったんだ。まだ原石だったエメラルドを、美しい宝石としたいと男は望んでいた。それを叶える代わりに、俺は宝石の所有権をもらった。そしてその中に自らの心を落としたんだ。これで何も考えなくて済むと思ったのに、宝石の中は案外自由でね。こうして、自らで幻影を作り出すことができた」