「……分かった。そういうことなら」

ローガンは降参とばかりに両手を上げ、ベリルを手招きして近くに呼ぶと、傍にいた召使に指示をだす。

「こちらのベリル嬢はブラッドリー侯爵のご息女だ。怪我の手当てと、新しいドレスを準備してあげてくれ。失礼の無いようにな」

「かしこまりました」

数人の侍女から視線を浴び、ベリルはたじろいてしまう。

「で、でも……」

不安そうなベリルを安心させるためか、ローガンは少し腫れた頬をそれは優しい手つきで撫で、耳元で囁く。

「美しくなった君を見たいんだ」

侍女たちから悲鳴が上がりそうな甘い微笑みに、ベリルの顔も真っ赤になる。

(もうっ。今はまだ、婚約者はシンディ姉さまなのに! こんなところを見られて変な噂が立ったら困るのに!)

そう思いつつ、本当に正直な自分の気持ちを言えば、ベリルは嬉しかった。
ローガンはいつも、ベリルのことを一番に気にかけてくれる。彼の行動ひとつひとつが、自分は望まれていないのではないかと常に不安に思うベリルの心を救い上げてくれるのだ。

「こちらですわ」

髪を結い上げた二十代の侍女ふたりが、ベリルを湯に入れ、たっぷりと時間をかけ、体の隅々まで洗い流した。
ひとりが頬を冷やし続けたので、腫れはだいぶ引いている。しかし、目の下あたりに青いあざが残ってしまった。

「大丈夫。お化粧で目立たなくできますよ」

王宮の侍女たちの髪結いや化粧の技術はすごいものだと、ベリルも認めざるを得ない。
彼女たちの手にかかれば、いつもどこか野暮ったい侯爵令嬢だったベリルが、洗練されたデザインのドレスを着こなす、美しい女性へと変身してしまうのだから。