シンディは思い切り右手を振って、ヒューゴの頬をたたきつけた。

「あなたの腕と、ベリルの命、どちらが大切なの! 私はベリルだわ。たったひとりの妹よ!」

語気荒く言い切ったシンディは肩で息をしていた。ヒューゴはぽかんとしたまま身動きが取れずにいる。

「……あなたの綺麗な手に傷がつきますよ」

肩を、大きな手に掴まれた。ゆっくりと振り向くと、コネリーが穏やかな瞳をシンディに向けている。

「ベリル様を救いに参りましょう。私がお手伝いします」

「コネリー様、でも場所が……」

「大丈夫です。……ヒューゴ殿、あなたには後ほどお聞きしたいことがあります。しばらく伯爵邸で謹慎しているように、とのローガン様のお言葉です。正式な通達文書は追って出します。逃げたりしたら、ご両親ともども処分されますことをお忘れなく」

「ローガン様が? なぜ!」

ヒューゴがさっと青くなる。それを尻目に、コネリーは自分の馬にシンディを乗せ、自分もその後ろにまたがった。

「参りましょう」

「は、はい。でも」

「帰りはベリル様も乗せることになる。お前は後をついてくるように」

王家の馬車の御者にそう言い、馬は走り出した。

「コネリー様、ベリルの居場所がわかりませんわ」

「見当はついています。先ほど言ったでしょう。ローガン様はベリル様を救いに行ったと。バートが呼びに来ないところを見ると、正解だったのでしょう。行きますよ」

走り出した馬の速さに、シンディはしばらく言葉もなかったが、道を曲がろうとするたびにコネリーの腕がシンディを守るように力が込められるのに気づいて、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。

(なんだか調子が狂うわ……)

どこを見ていいのかも分からない。ただ、妙に背中を意識してしまって、うしろを振り向くことができなかった。