「違う、俺は援軍を呼びに来たんだ。そのほうが早くベリルを救うことができると思って」
「そうでしょうか。女性が攫われることで起きうる犯罪の恐ろしさくらい、あなたもわかっているでしょう? ベリル様に一生消えない心の傷がついたら、どうするおつもりなんです。しかも相手はあなたの婚約者でしょう? のんきに自分の屋敷まで援軍を呼ぶ前に、警吏のものを使って捜索の手配をしたり、そこでぴんぴんとした体で座っている御者に尾行させるなり、やりようがあるはずです」
コネリーの訥々と、そして冴え冴えとした語り口調に、シンディはぞくっとした。語気荒く説教されるよりも、恐ろしく感じる。それはヒューゴも同じのようで、逃げるようにコネリーからは目を反らし、シンディの両肩をつかんで訴えてくる。
「犯人ともみあいになって俺も怪我をしたんだ! 御者が俺の心配をして連れて帰ってくるのも無理ない話だろう。シンディ! 君ならわかってくれるだろう?」
シンディは息をのむ。
ヒューゴの言うことを信じたい。だけど、コネリーが言っていることはもっともなのだ。
婚約者がさらわれるのを、腕の怪我ひとつで見送るような男がいるだろうか。いるとするならば、そこには愛がないのだ。
身の危険を冒してまでも救おうという気が、彼には全くないのだろう。
恋の熱が冷めた今、シンディにも、ヒューゴが保身ばかりを考えているのが見て取れる。



