エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~



シンディはアシュリー伯爵家に赴き、ヒューゴを呼び出した。が、伯爵夫妻は外出中で、ヒューゴもまだ戻ってきていないと対応に出た執事に言われてしまう。
シンディもよく知る実直な執事だ。嘘をついているという可能性は低い。

(でも……、彼がベリルを連れてほかにどこに行くかしら)

まさか本当にシンディを探しに城へ来たのか。だが、王城へ向かおうとするなら使う道は限られている。シンディが屋敷に戻るまでの間に行き会ってもおかしくない。
別の屋敷で夜会に出るのならばそれらしい装いをするはずだから、それも可能性としては低い。

門前で考えて込んでいたシンディは、馬のひづめの音に顔を上げた。通りの反対側から現れたのは、栗毛の馬に乗ったコネリーだ。慌ててやって来たのか額には汗がにじんでいて、焦りを含んだまなざしは、城で会う時の涼し気な様子とは一風変わってどこか艶めいている。シンディは一瞬ドキリとしてしまった自分に驚く。

「コネリー様? どうしてここへ?」

彼はすっと馬から下り、シンディの手を取ってうやうやしくその甲に口づける。

「ご無事なようでなによりです。もう伯爵家へは入られたのですか?」

こちらが先に質問しているというのに、質問で返された。
シンディは少しばかり拗ねた気持ちになって、もの言いたげに彼を見上げる。察しのいい彼は、すぐに自分の失態に気づいたようで、「ああ」と言ってから小さく笑って頭を下げた。