「シンディ様、お待ちしておりました」

彼女より十歳ほど年長の女性が、出迎えにやって来る。ベリルが言っていた、お付きの侍女のドナだろう。

「ええと、ドナ。昨日は連絡もなく帰ってしまってごめんなさい」

「いいえ。まだお顔の色がよろしくありませんね。体調が悪くなったら、無理なさらず、すぐにおっしゃってくださいね」

「ありがとう」

シンディはドナに一歩遅れるような形で歩き始めた。いつも勉強に使っている部屋の場所は、ベリルから説明を受けていたが、見知らぬ場所で見知ったふりをするには限界がある。ドナにおかしく思われないか気になって、ちっとも心が落ち着かなかった。

「そういえばローガン王子は……」

「ご公務が忙しいそうですよ。いつものように昼食はご一緒なさるとのことです」

「そう」

であればその時に、コネリーという男にも会えるのだろう。ドレスの隠しにいれた、昨晩ベリルに託された手紙を握り締め、ほっと息をつく。
やがて教師がやって来て、簡単なあいさつの後、すぐに講義に入った。黙って聞いていればいいだけだろうと思っていたが、これがなかなかに苦痛だ。シンディは直ぐに飽きてしまう。
単語も歴史も計算も、頭の上を素通りしていく。これを午前中ずっとやるのかと思うとため息しか出ない。