「今度はぼくから訊いていい?」

「……うん、いいよ」

「君はどうしてここに来たの?」

 翔太くんは言いづらそうに少し黙ってから勇気を出して答えました。

自分がいじめられていたこと。

クラスのみんなは誰も助けてくれなかったこと。

先生やお父さん、お母さん、誰にも相談できなかったこと。

そして、そんな毎日に耐えきれず、学校の屋上から飛び降りて、ここに来たこと。

吐き出すように全部話しました。クロは翔太くんの顔を見上げ、目をじっと見ながら黙ってそれを聞きました。

「行きたくないなら行かなきゃいいのに」

話し終えた翔太くんに、クロは思ったことを隠さずそのまま伝えました。

「そういうわけにもいかないんだよ。親もうるさいし、学校に行って勉強しないとみんなに置いてかれるんだ」

「ふ~ん。人間って変なの。その学校や勉強って命よりも大事なことなの?」

これには翔太くんも何も言い返せません。ただ黙ってクロの言葉を待ちます。

「ぼくたちの仲間の中にも嘘をついたり、いじわるする奴はたまにいるけど、人間ほどじゃないな。なんで人間って、みんな仲良くできないんだろう……。同じ仲間にそんな酷いことをするなんて、絶対おかしいよ!」

クロは腕組みをして、難しい顔でなにやら考え事をしています。近くで流れる川の流れる音だけが、やけに大きく聞こえます。

「う~ん……。やっぱりいくら考えても、君がどれだけ辛かったかなんて想像できないし、分かんないや。ぼくは君じゃないから君の気持ちを全て理解することなんてできないよ。ごめんね」

クロはその黒い小さな頭をぺこりと丁寧に下げました。

「俺の方こそ、人間が君に酷いことをして、その、あの……ごめんなさい!」

翔太くんも同じように、ぺこりと頭を下げました。それに気づいたクロは頭を上げ、不思議そうに尋ねます。

「なんで君が謝るの?君は何も悪くないよね?それなのに、何でごめんなさいしてるの?」

「俺も、同じ人間だから」

「たしかに、君も人間だけど、悪い人間じゃないと思う。ぼくには分かるんだ。君は良い人間だってね。それに、君はあの人間とは違う。同じじゃないよ。全然違う。だから、頭を上げて。お願いだからさ。君は悪くないよ」

翔太くんはクロの言葉に従うように、頭をゆっくりと上げました。でも、表情は暗いままです。