「辛い目になんかあってない」


「どういう事だ?」


「オレは萌香のことが
好きだったんだ
だから オレから誘った
むしろ嫌がる萌香に手を出したのはオレ
どうしてあの時オレに
一言言ってくれなかったんだよ」


何度も『あのときオレに
言ってくれなかったのか』と言い寄った。


「お前のことを思って」


「そう思うなら一言聞いてよ」


「会ったのか?その小島さんと」


「お父さんが研修先の病院に
入院していて」


「そこで何か言われたのか?」


「言われてない
ただ様子が変でつじつまが合わないから
ここに聞きにきたんだよ」


「そうなのか
しかしもう小島さんと関わりあうな
昔のことだ
なっ?お前もいい人ぐらい居るだろ?」


何故避けさせる?


「オレの恋愛までおじいさんに
指図されたくない」


「小島さんももう向こうで
頑張ってるんだから
もうそっとしておけ」


「あの人は親のために
仕事を辞めて帰ってきた」


「聞いてないぞ?」


「逐一報告があったのか?
見張ってたわけか?」


「そーじゃない
すぐには辞めさせて帰らさないでと
言ってただけだ」


「ひどいな ほんと酷いよ!
好きな職で頑張れてたのが救いだよ」


「好きな職?」


「通訳してたんだろ?」


「つ・通訳?ああ・・・通訳ね
そうそう 通訳してた」


その言い回しに嘘だと思った。


「萌香は向こうで何してた?
何させてたんだよ!」


「つ・通訳だよ」


「わかった!萌香に聞く」


するとおじいさんは 「清掃員だ」と
言った。


オレは何とも言えない気分になった
萌香は親に「通訳してる」と
嘘をついて3年間頑張っていたんだ
そう思うと居ても立っても居られなかった。


憎もうと思っても心底憎めない
それは心のどこかに萌香のことが
まだ好きだという気持ちがあったから。


萌香をこの腕にまた戻したい
今度こそ離さない
オレはそう思った。