「お怪我はありませんか?」
「あ、大丈夫です!助けて下さりありがとうございます!お礼をしたいところなのですが、今手持ちがなくて…」
「お礼なんていいですよ!大した事してませんから」
騒ぎが収まると、あれほど居た人だかりも自然とまばらになっていった。
「それじゃあ私はこれで」
「本当にありがとうございました!」
揉めている最中に視界の隅に入った、野次馬たちの中にいた妙な男が気になった。まるで、私を試すかのような目で見つめていた若い男。
歩き始めても、あの時の不気味な視線は私を追いかけていた。
思い切り振り返ったそこには、青色よりも緑に近く、花色より薄い色の羽織を着たさっきの若い男が立っていた。