「エサをやってる」
私は昨日、沖田さんに聞いた話を思い出した。
「あ……もしかして、斎藤さんですか?」
「………。なにか用か」
「いえ、目が覚めてしまって金魚を見に来たんです」
「………そうか」
なんとなくだけど、少し嬉しそうに見えた気がした。
なんか、不思議な人だな。
まつ毛が長く、鼻の高い綺麗な横顔を見つめていると、ふと道場にいた時のことを思い出した。
あ………あの時隅で素振りをしてたの、この人だ。
斎藤さん、っていうんだ……。
まじまじと彼の横顔を見ていると、その沈黙を破ったのは意外にも斎藤さんだった。
「悪者扱いされていながら何故逃げないんだ」
「え………?」
「逃げる隙なんかいつでもあっただろ」
綺麗な切れ長の目が私を見つめた。
「あ…………私、帰る家もないのでどこにいても同じなんです」
「ここにいてもいい事なんて何も無い。ここにいれば命を狙われる事だってあるんだぞ。
素性を晒し、早くここを去ることだな」
そう言い捨てると、斎藤さんはどこかへ行ってしまった。


