「どの辺がですか?」



「わからん。なんとなくだ」



「私、物心がつく頃にはもう両親を亡くしていて、それから一人で生きてきたので人間らしい感情が欠けてるみたいなんです」



「………大変だったんだな」



「それなりに苦労はしました」



永倉さんは、労るように手を頭にポンと置いた。



「永倉さん……?」



「溜め込むんじゃねーよ。たまには吐き出したっていーじゃねーか」



その言葉は、私の冷え切った心を少し温めてくれた気がした。



「ありがとうございます。永倉さんて優しいんですね」



すると、永倉さんは一瞬驚いたように目を見張ると、いつも通りの表情で言った。



「………やっぱり俺、お前のこと気に入らねぇわ」



ぶっきらぼうに言った彼の横顔は、心做しか微笑んでいるように見えた。



「一汗かいてくっかな」



「今からですか?」



「武士が鍛えるのに時間なんて関係ねーんだよ」



「そうですね。頑張ってください」



「ん」



道場の方へと歩いていく永倉さんを最後まで見届けると、再び池の中の金魚へ視線を戻した。