彼女はジュリエッタと名乗った。

彼女に連れられて着いた場所は時計塔から程近く、周囲の民家より五倍ほども大きな、二階建てのレンガ造りの屋敷である。

それだけではなく、頑丈そうな倉庫が二棟も、敷地内に建っていた。


ジュリエッタの後について玄関を潜れば、「父を呼んで参ります」と言われて、そこで待たされる。

豪華な玄関ロビーを見回しながら、「まさか領主の屋敷じゃないよね……?」とラナが目を瞬かせれば、隣に立つカイザーが「違う」とすぐに否定した。

「ルーモン伯爵は三十二歳で、ふたりの子供はまだ幼いはずだ」と、資料に書かれていたことが、その理由のようだ。


イワノフもホッホと笑って言った。

「豪華であっても、貴族にしたら少々物足りないの。使用人たちが倉庫に積まれた小麦袋を運び出しておったから、ここは小麦問屋じゃろうと、わしは見ております」


「ふーん」とラナが納得したら、廊下の奥からジュリエッタが戻ってきて、隣には父親と思しき恰幅のいい中年男性を連れていた。

上等な衣服を身に纏った父親は、彼女が言った通りに、突然の客人を歓迎してくれた。